
理事長 奥 直人
平成18年度から始まった6年制の薬学教育制度が10年を経過し、全国の薬科大学・薬学部は次の10年へと歩み出しました。薬学共用試験センターは、実務実習を行う学生の資質を担保するための薬学共用試験を円滑に実施する組織として発足し、平成28年10月に設立10周年を迎えました。
薬学共用試験の意義については、既に広く認知されていることと存じますが、改めて紹介いたします。6年制薬学教育では、薬学生自身が病院や薬局で薬剤師の仕事を経験する参加型の長期実務実習を行います。また、その期間は病院実習と薬局実習を合わせて22週間です。実務実習では、薬剤師が担う責任ある仕事を、学生が実際の医療現場で指導を受けながら学ぶことによって、実践能力を身に付け同時に倫理観や使命感を醸成していきます。ここで、薬剤師資格を持たない薬学生が医療現場で薬剤師と同様の行為を行うためには、受入施設の承諾や協力、さらには患者・家族の方々や医療スタッフのご理解が必須です。また、学生を送り出す側の大学は、一人ひとりの薬学生が実務実習を実施するにあたっての基礎及び専門知識・技能・態度を、十分なレベルまで修得していることを確認し、社会に保証する必要があります。薬学共用試験はこのための試験であり、薬学共用試験で基準を満たした学生の能力を、大学が責任を持って認定することが、病院・薬局における実務実習を行う上での条件になっています。
薬学共用試験では、医療現場で必要とされる基本的知識をコンピューターによる客観試験(CBT)で、また、薬学生が実務実習を始める前に備えるべき基本的技能・態度を客観的臨床能力試験(OSCE)で評価します。このような薬学独自の共用試験を実施するために、薬学共用試験センターは日本薬学会、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会と緊密な連携をとりながら、多くの薬学部教員の協力によるCBT試験問題やOSCE課題の作成、および試験実施のためのコンピューターシステムの構築・改良に取り組んでいます。
平成25年12月、10年間で変化してきた時代のニーズに合わせて、6年制薬学教育の指針となる薬学教育モデル・コアカリキュラムが大幅に改訂されました。この薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂版(以下 改訂コアカリ)の大きな特徴は、薬学生が卒業時に身に付けるべき10の基本的資質を決め、目標とする資質を修得するための体系的な教育(outcome-based education、OBE)を行うことです。改訂コアカリは、平成27年度の1年生から適用されており、平成31年度には改訂コアカリに基づく実務実習が行われます。このため、平成30年度の4年生が受験する薬学共用試験から、改訂コアカリに準拠した試験になります。現在、改訂コアカリに合わせた、新たなCBT問題やOSCE課題の準備を進めています。
薬学共用試験センターは、これからも、臨床に係る実践的な能力を有する薬剤師養成のために、薬学共用試験に関わる事業を行っていきます。これにより、わが国の医療、福祉に貢献できる人材、薬剤師として様々な分野で活躍できる人材の育成のために一翼を担ってまいります。みなさまには、薬学共用試験センターの活動に格別のご理解を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
平成29年3月1日
特定非営利活動法人 薬学共用試験センター
理事長 奥 直人